AWSの認定試験で頻出である「AWS CAF」、“覚えづらい”と思いませんか？それは、6つのパースペクティブそれぞれの役割が抽象的で、どの視点がどんな内容を担当しているのか分かりにくいからなのです。
そこで、この記事ではCAFを比較的省エネで理解できるようにまとめてみました。特に、試験でよく狙われる紛らわしいポイントや、パースペクティブ同士の境界をかみ砕いて説明しているので、「あれ？これってどの視点だっけ？」という迷いを一つずつ減らしていけるはずです。
目次
AWS CAFの概要
AWS CAFとは？
組織がクラウドサービスを効果的に導入・運用できるよう、AWSの経験とベストプラクティスを集約したガイドラインです。
CAFは、クラウド導入を成功に導くために必要な6つの視点（パースペクティブ）で構成されています。各パースペクティブは、ビジネス・人材・ガバナンス・プラットフォーム・セキュリティ・オペレーションのそれぞれに焦点を当てており、「どの観点をどのように整備するか」を明確にします。
| パースペクティブ | 概要 |
|---|---|
| ビジネス（Business） | クラウド投資がビジネス成果につながることを確保する視点 |
| 人材（People） | 組織・人材・文化・スキルをクラウド適応できるように整える視点 |
| ガバナンス（Governance） | クラウド導入を管理・制御し、リスクと価値を最適化する視点 |
| プラットフォーム（Platform） | ハイブリッド／クラウド基盤を実現・標準化・モダナイズする視点 |
| セキュリティ（Security） | データ／ワークロードの機密性・整合性・可用性を実現する視点 |
| オペレーション（Operations） | クラウド環境を運用・監視・改善して、ビジネス要件を満たす視点 |
これら6つを通して、クラウド導入に伴う変化を ビジネスと技術の両面から体系的に整理 できます。
いつ・どのように使うのか
CAFは、クラウド導入の初期段階で「現状把握」と「改善ポイントの特定」を行うために使います。ズバリ言うと、CAFは“クラウド移行に向けて会社として何が足りていて、何が足りていないのか”を明確にするための仕組みです。公式に沿った最も実務的な使い方は以下です。
① クラウドビジネスアセスメントを実施する
CAFを使うとき、一番重要なのは Cloud Business Assessment（クラウドビジネスアセスメント） です。これは、AWSが公式に推奨する“CAFの中心となる使い方”です。
アセスメントの進め方は次のとおり：
- 6つのパースペクティブごとに質問（設問）が用意されている
- 現状がどの程度できているか（成熟度）をスコアとして回答する
- スコアが低い領域＝移行に向けてリスクがある領域として可視化
- 不足している能力（Capabilities）を補うためのアクションが自動的に提示される
AWSワークショップではこのプロセスが標準で行われます。誤情報を避けて明確に言うと、CAFを使う “実務的な中心作業” はこのアセスメントです。
② 結果をもとに、改善ロードマップを作成する
アセスメントでスコアが低い領域（例：人材スキル、ガバナンス、セキュリティ統制など）は、移行における“詰まりポイント”になり得ます。CAFでは、これら不足している能力に対し、パースペクティブごとのガイダンス（Capabilities） が提供されます。つまり、「何を整備すればよいか」「どんな順番で進めるべきか」「誰が関わるべきか」といった改善内容が、公式ドキュメントに沿って明確になります。これに基づき、クラウド移行に向けた 改善ロードマップ を作成します。
③ 移行前・移行中・運用後にも“点検”として使う
CAFは「一度やって終わり」ではなく、システムの移行前、移行中、移行後の運用フェーズでも継続的な点検が実施されます。
- 移行前：成熟度評価と改善計画
- 移行中：改善ロードマップに沿って進捗確認
- 運用後：再度CAFを使い、組織としての成熟度が向上したか評価
6つのパースペクティブの詳細解説
各パースペクティブについて、AWS認定試験（CLF／SAA）で問われやすいキーワードを意識して以下に整理します。試験では概念理解と用語の結びつきが重要となるため、キーワードを押さえておくことで得点しやすくなります。
ビジネス（Business）
クラウド導入の目的を明確にし、投資がどのようにビジネス価値を生み出すかを定義する視点です。たとえば、業務効率の向上、新規サービスのスピード改善、コスト構造の最適化など、「クラウドが経営戦略にどう寄与するか」を整理します。
ビジネス視点の主なCapabilities（AWS公式）
- ストラテジーマネジメント：
クラウドを活用してビジネス成果を加速させる戦略を策定する能力 - プロダクトマネジメント：
データやクラウド活用のプロダクトを管理し価値を提供する能力 - ビジネスインサイト：
ビジネス状況をリアルタイムで把握し、意思決定に役立つ洞察を得る能力 - ポートフォリオマネジメント：
価値の高いクラウドプロダクトやイニシアティブの優先順位を付け、投資を最適化する能力 - 戦略パートナーシップ：
クラウドプロバイダーとの戦略的パートナーシップを構築し、ビジネス成長につなげる能力 - データサイエンス：
分析・機械学習を活用し複雑なビジネス課題を解決する能力 - イノベーションマネジメント：
新しいプロセス・サービス・製品を生み出し、既存のものを改善する能力 - データの収益化：
データを活用し具体的なビジネス価値（収益・効率化）を獲得する能力
これらはすべてAWS公式CAFホワイトペーパーに定義されている内容であり、ビジネス視点が「単に経営目標とクラウドを結びつけるだけでなく、データ活用やイノベーション創出まで含む広い範囲」を対象としていることがわかります。
データサイエンスやデータの収益化についてはビジネスパースペクティブに紐づきにくい用語のため、選択問題として問われた際は注意しましょう。
また、全体的にガバナンスパースペクティブの内容と混同されがちなので以降で突き合わせて確認しておきましょう。
人材（People）
このパースペクティブでは、組織のスキルや文化をクラウド時代に適応させるための施策（教育、役割再定義、リーダー育成、変化管理）を扱います。「変化が日常になる」文化を築くことがゴールです。
さらにAWS公式では、人材（People）パースペクティブのために、以下のような能力が定義されています。これは“クラウド時代の人・組織が持つべき力”を体系化したものです。
人材視点の主なCapabilities（AWS公式）
- 文化の進化：
組織文化を評価し、デジタル変革に向けて段階的に進化させ、共通理解を形成する能力 - ワークフォースのトランスフォーメーション：
クラウド時代にふさわしいスキルを持つ人材を育成し、高いパフォーマンスを発揮できるチームを構築する能力 - トランスフォーメーションリーダーシップ：
組織変革を推進できるリーダーを育成し、クラウド導入を牽引する能力 - 変革の促進：
新しい働き方・プロセスの採用を促進し、組織が迅速に変化へ対応できるようにする能力 - 組織の連携：
組織構造・文化・ビジネスオペレーションを結びつけ、一貫性を持ってクラウド活用を推進する能力 - クラウドフルエンシー：
クラウドを理解し、自信を持って業務に活かせるだけの知識と判断力を組織全体で持つ能力 - 組織設計：
クラウド時代の働き方に適した組織デザインを行い、役割・責任・プロセスを最適化する能力
これらの機能は、単に“教育を行う”という範囲にとどまらず、人材・組織文化・リーダーシップ・組織設計といった広範な領域でクラウド適応力を強化するためのものです。
変革の促進については、ビジネスパースペクティブの内容と混同しがちなので注意しましょう。
また、ワークフォースのトランスフォーメーションやクラウドフルエンシーなど聞きなれない言葉は復習多めにした方が良いでしょう。
ガバナンス（Governance）
クラウドを導入しても、管理が不十分であればリスクやコストが膨らみます。この視点では、クラウド投資の効果測定、リスク管理、ポリシー策定、コンプライアンスなどを通じて、導入を統制しつつ継続的に最適化する方法を定義します。さらに、組織全体のリスクを抑えながら、クラウド投資によるメリットを最大化する仕組みづくりを支援するのも目的の一つです。経営層と技術部門の橋渡し役となる領域です。
ガバナンス視点の主なCapabilities（AWS公式）
- プログラム／プロジェクト管理：
複数のクラウド施策をムダなく連携させて、計画的に進める能力 - クラウド財務管理：
クラウド支出を計画・測定・最適化する能力 - 利益管理：
クラウド投資によって得られるビジネス上の利益を確実に実現・維持する能力 - アプリケーションポートフォリオ管理：
ビジネス戦略に沿ってアプリケーション群を整理・最適化する能力 - データキュレーション：
データカタログを整備し、データプロダクトのインベントリを管理する能力 - リスク管理：
クラウド活用に伴うリスクを特定し、クラウドを活かしてリスクプロファイルを低減する能力 - データガバナンス：
データに対する権限と統制を行使し、ステークホルダーの期待に応える能力
これらの機能は、「クラウド利用のルールづくり」から「コスト最適化」「リスク軽減」「データガバナンス」までを広くカバーしています。
ビジネスパースペクティブの内容と混同されがちなので突き合わせて確認しておきましょう。
また、整理・管理という要素が深いものはガバナンスに該当するので最終手段の紐づけ方として覚えておくのもよいかと思います。
プラットフォーム（Platform）
アプリケーションやワークロードを安全かつ効率的に実行できるクラウド基盤を整備する視点です。ネットワーク、セキュリティ、モニタリング、CI/CD といった要素を標準化し、スケーラブルな環境を構築します。アーキテクトやエンジニアが主に担う領域です。
プラットフォーム視点の主なCapabilities（AWS公式）
- プラットフォームアーキテクチャ：
クラウド環境のガイドライン・原則・パターン・ガードレールを定義し、標準化された基盤を構築する能力 - データエンジニアリング：
組織全体でデータフローを自動化・オーケストレーションし、データ活用の基盤を整備する能力 - データアーキテクチャ：
用途に適した分析基盤やデータアーキテクチャを設計・進化させる能力 - プロビジョニングとオーケストレーション：
承認済みクラウドプロダクトのカタログを作成・管理し、ユーザーが適切に利用できるよう提供する能力 - 継続インテグレーションと継続デリバリー（CI/CD）：
アプリケーションやサービスを迅速に改善・展開できるよう、自動化されたCI/CDパイプラインを構築する能力 - プラットフォームエンジニアリング：
セキュリティ統合と再利用可能なプロダクトを備えた準拠性の高いクラウド環境を構築する能力 - モダンアプリケーション開発：
クラウドネイティブなアプリケーションを設計・構築し、クラウドのベストプラクティスに沿った形で提供する能力
これらは、インフラからデータ基盤、モダン開発まで含めた“総合的なプラットフォーム能力”です。
プロビジョニングとオーケストレーション、継続インテグレーションと継続デリバリーに関してはオペレーションパースペクティブの内容と混同されがちなので注意しましょう。
セキュリティ（Security）
クラウド導入における「信頼性の根幹」を支える視点です。データ保護、アクセス管理、脅威検知、コンプライアンス対応を通じて、情報資産を守ります。
セキュリティ視点の主なCapabilities（AWS公式）
- セキュリティガバナンス：
セキュリティに関する役割・責任・ポリシー・手順を明確に定め、組織全体に浸透させる能力 - 脅威検知：
設定ミス・脅威・異常動作など潜在的なセキュリティリスクを理解・特定する能力 - データ保護：
データの可視性と制御を維持し、アクセス方法や利用状況を管理する能力 - セキュリティ保証：
セキュリティおよびプライバシープログラムの有効性を監視・評価・管理・改善する能力 - 脆弱性管理：
脆弱性を継続的に識別・分類・修正・軽減する能力 - アプリケーションセキュリティ：
ソフトウェア開発プロセス全体でセキュリティリスクを検知し、対処する能力 - IAM（Identity and Access Management）：
大規模な環境でアイデンティティと権限を一貫して管理する能力 - インフラ保護：
クラウド上のシステムやサービスを保護し、セキュリティ基準に準拠させる能力 - インシデント対応：
セキュリティインシデントに迅速かつ効果的に対応し、潜在的な影響を最小化する能力
これらは AWS のセキュリティベストプラクティスを包括的に整理した能力セットです。
インシデント対応がオペレーションパースペクティブの内容と混同されがちなので注意しましょう。
オペレーション（Operations）
クラウド環境を安定して運用し、継続的に改善していくための視点です。監視、インシデント対応、変更管理、パフォーマンス最適化などを通して、クラウドサービスを「運用可能な状態」で維持します。
オペレーション視点の主なCapabilities（AWS公式）
- 可観測性：
インフラやアプリケーションのデータから問題を可視化し、行動可能な洞察を得る能力 - イベント管理／AIOps：
イベントを検知し、影響度を評価し、適切なコントロールアクションを決定する能力 - インシデント・問題管理：
障害を迅速に復旧し、ビジネス影響を最小化する能力 - 変更／リリース管理：
本番環境への影響を最小限にしつつ、ワークロードの変更やリリースを安全に実施する能力 - 性能／キャパシティ管理：
ワークロード性能を監視し、現在および将来の需要に応じて最適なキャパシティを維持する能力 - 構成管理：
ワークロードの構成、依存関係、変更履歴を一元的に管理する能力 - パッチ管理：
ソフトウェア更新を体系的に配布・適用し、セキュリティと安定性を維持する能力 - 可用性と継続性：
重要な情報・アプリケーション・サービスの可用性を確保する能力 - アプリケーション管理：
アプリケーションの問題を単一画面から調査・監視・改善する能力
これらの機能はクラウド運用の“可視化・自動化・継続改善”を支える中核です。
インシデント・問題管理、パッチ管理がセキュリティパースペクティブの内容と混同されがちなので注意しましょう。
また、全体的にプラットフォームの内容と混同されがちなので注意しましょう。
参考リンク
AWSが提供するCAF公式ドキュメントは、パースペクティブごとに役割・目的・能力（Capabilities）が詳細に整理されています。学習時は “パースペクティブ → 能力 → 活用シーン” の順に読むと理解しやすくなります。下記リンクはすべてAWS公式ホワイトペーパーです。
各パースペクティブの公式ホワイトペーパー
- ビジネス（Business）：
https://docs.aws.amazon.com/whitepapers/latest/aws-caf-business-perspective/aws-caf-business-perspective.html - 人材（People）：
https://docs.aws.amazon.com/whitepapers/latest/aws-caf-people-perspective/aws-caf-people-perspective.html - ガバナンス（Governance）：
https://docs.aws.amazon.com/whitepapers/latest/aws-caf-governance-perspective/aws-caf-governance-perspective.html - プラットフォーム（Platform）：
https://docs.aws.amazon.com/whitepapers/latest/aws-caf-platform-perspective/aws-caf-platform-perspective.html - セキュリティ（Security）：
https://docs.aws.amazon.com/whitepapers/latest/aws-caf-security-perspective/aws-caf-security-perspective.html - オペレーション（Operations）：
https://docs.aws.amazon.com/whitepapers/latest/aws-caf-operations-perspective/aws-caf-operations-perspective.html
■全体像をつかむためのガイド
- AWS Cloud Adoption Framework（総括文書）：
https://docs.aws.amazon.com/whitepapers/latest/aws-cloud-adoption-framework/aws-cloud-adoption-framework.pdf
CAFの主要概念（パースペクティブ・Capabilities・アセスメント手法など）はすべてこの総括文書に集約されています。まずは全体像を押さえ、必要に応じて各パースペクティブのホワイトペーパーを深掘りするのがおすすめです。
練習問題
上記で学んだことをもとに実際にAWS認定試験と同じ形式で問題を解いてみましょう。
試験で狙われやすいポイントを重視して問題設定をしています。
まとめ
本記事では、AWS CAF の6つのパースペクティブを「役割」「能力」「試験での狙われ方」という3つの切り口で整理しました。CAFは範囲が広く抽象度も高いため、まずは“どのパースペクティブが何を扱うのか”を押さえることが理解の第一歩です。
このほかにもAWS認定資格試験の対策に関する記事がありますので、以下のリンクから気になる記事を覗いてみてください！
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