現場で差がつく運用保守の考え方:安定運用を支える実務視点

コラム

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運用保守は「地味」「下流」と言われることがあります。しかし、実際に現場を回していると、静かな毎日の裏側で数え切れない意思決定が走り、見えないところで多くの人の仕事と生活が支えられていると実感します。運用保守の価値は、小さな調整と判断の積み重ねで“止まらない”を支え、日々の“当たり前”を当たり前のまま保ち続けることにあります。

とはいえ、現場では同じミスが繰り返されます。原因は一つではありません。体制や権限設計、手順や仕組み、情報の見える化、人のスキルや負荷など、たいていは複合要因です。そのうえで、日々の意思決定を大きく左右するのが「考え方(判断の基準と順序)」です。本記事では、この“考え方”に焦点を当て、なぜ必要かを整理し、読んだ直後から現場で使える思考の土台を共有します。

システムを守るという視点

「守る」とは、かっこいい復旧テクニックを披露することではありません。被害を最小にしながら、最も早く安定を取り戻すために、冷静に順番を決めて動くことです。

なぜ必要か

システムは人やビジネスが毎分使う社会インフラです。判断を誤れば被害は広がります。だからこそ、順番と根拠を整えて動くことが、安定へ最短で到達するために不可欠です。

考え方

1)安定稼働を最優先にする。
誰のせいかは後でいい。まずは“止血”です。影響範囲を素早く見極め、広がりを抑える暫定策(回避導線や手動処理、対象機能の一時停止など)を先に打つ。

2)事実と推測を分ける。
「たぶん」「おそらく」は行動の根拠になりません。ログの時刻、アラートの数値、実際に発生している症状──観測できる事実だけを最初に並べる。推測は“仮説メモ”として別枠に置く。

3)時系列と事象を関連付ける。
発生→検知→報告→対応→復旧を縦の軸に、各時点で「何が起き、直前に何をしたか」を横の軸で紐づける。10:02のアラートと10:00のリリース、9:58のエラー出力が並ぶと、検証すべき順番が自然に見えてきます。

4)被害を最小化する。
全復旧までの“つなぎ”を軽視しない。「A機能は止まっているが、B経由で代替できる」「バッチは遅延するが、日中の処理は確保できる」──この“橋渡し”の提案が、ユーザーの不安も損失も下げます。

5)透明に伝える。
状況を飾らない。「今どこにいて、何をして、次の報告は何分後か」。専門用語を外し、短く正確に。誤魔化しは信頼を削り、判断を遅らせます。守る対象はシステムだけではなく、その先にいる人とビジネスです。

6)応急で終わらせない。
復旧直後は疲れていても、なぜ起きたか、再発をどう防ぐかを必ず言語化する。短期(応急)、中期(恒久策)、長期(設計の見直し)を分けて打ち、約束した期日を守る。ここまでやって初めて「守った」と言えます。

仕組みで解決する発想

人は疲れます。夜勤明けは判断が鈍り、忙しい日は注意が雑になります。だからこそ、注意力に頼らない。 人間の弱さを前提に、同じ品質を再現できる道具立てを作る。それが“仕組みで解決する”という考え方です。

なぜ必要か

人の注意力には波があります。仕組みによって品質を固定化し、忙しい日や夜勤明けでも同じ結果を出すために必要です。

考え方

1)属人化をやめる。
「あの人しかできない」は称賛ではなくリスク。手順は他の人が読んでも迷わず実行できるか、作業後の状態が同じ結果になるか。名前の付け方、画面のスクリーンショット、確認観点の書き方まで含めて“誰でも”の設計にする。

2)注意力を設計に埋め込む。
手で打つ作業は、極力スクリプト化・バッチ化する。実行前に“乾式テスト(dry-run)”のモードを用意し、対象件数や影響範囲を画面に出す。危険な引数には二重確認を入れる。これらは賢さではなく、臆病さの設計です。臆病であれ。そのほうが現場は強くなります。

3)標準化でスピードと品質を両立する。
フォルダ構成、手順書フォーマット、命名規則、ログの保存場所──細部を揃えると、初見の人でも迷いません。迷いが減れば、スピードも品質も上がる。標準は“自由を奪う鎖”ではなく、“判断の回数を減らすレール”です。

4)仕組みは育てる。
一度作って終わりではありません。実際に使い、引っかかった箇所に印をつけ、次回直す。冗長な手順は削り、曖昧な表現は具体に置き換える。仕組みは“完成品”ではなく“育成中のプロダクト”。更新を躊躇しないことが、事故の芽を摘み続ける力になります。

改善と学習を続ける姿勢

同じ種類の障害が続くとき、現場は復旧に全力でも、対応内容が前回と同じなら原因特定と対策設計が後回しになっているサインです。復旧はゴールではなく次の改善への起点――「なぜ起きたか/次はどう防ぐか」まで含めて一連の仕事と捉える視点が必要です。

なぜ必要か

同じ問題を繰り返さないことで、残業や機会損失を減らし、現場への信頼を積み上げるためです。

考え方

1)繰り返しを合図にする。
同じ現象が2度起きたら、赤信号。3度目は許容しない。暫定対応の直後に15分だけでも振り返りの枠を確保し、「次に同じことが起きたら、どこを触らず、どこを先に見るか」を決める。

2)小さくていいから動かす。
改善は大工事でなくていい。アラートメールの件名を見直す、手順書に一行だけ補足を入れる、ダッシュボードに“いつも見る数値”を1つ足す。1ミリの改善は積み重なると道になります。

3)学びを業務に結びつける。
新しく知ったことは、翌日の仕事で1回使ってみる。たとえばログの検索の仕方を学んだら、実際の障害記録をその手法で振り返る。学びが“知っている”から“使える”に変わる瞬間です。

4)変化を恐れない。
安定は「変えないこと」では生まれません。むしろ、より良い方法に置き換えていくから安定が続く。現状維持は一見安全に見えて、実は“劣化の始まり”。勇気を持って、より良いほうへ一歩動く。失敗したら戻せばいい。戻せる設計にしておけば、挑戦は怖くありません。

チームで動く意識

運用保守は交代制、複数人、複数部門が前提です。
個人のヒーローより、チーム全体のふつうの強さがシステムを守ります。

なぜ必要か

運用は交代制・多人数前提です。個人の限界をチームの仕組みで乗り越え、24時間の連続性を保つために不可欠です。

考え方

1)情報を残す。
口頭は消えます。書き残した情報は残ります。「何が起き、何をして、今はどうか、次はいつ見るか」。この4点を短く、でも具体的に。未来の自分や同僚が、記録を見れば5分で現状に追いつける状態を目指す。

2)引き継ぎは“そのまま動ける”レベルで。
「念のため見てください」では弱い。「10時にこのグラフを確認、閾値を越えたらジョブを止め、B担当に連絡」のように、行動指示まで書く。相手の想像力に頼らず、行動に直結する言葉で渡す。

3)属人化をほどく。
手順やスクリプトを共有し、担当外のメンバーでも回せる状態を作る。結果として、“その人が休めない”状況を減らし、組織全体の耐久性が上がる。人を守ることは、システムを守ることでもあります。

4)学びはチームに戻す。
自分だけが知っている小さなコツほど、ドキュメントや朝会で共有する。知っている人と知らない人の差を放置しないこと。差は、トラブルの温床です。

5)チームの成果を優先する。
個人がどれだけ頑張っても、全体が止まれば意味がありません。だから、情報を独り占めしない。助けを求める。助けに行く。互いの見落としを補い合う。その文化が、最終的に顧客の信頼になります。

ステークホルダと関わる姿勢

運用保守は“裏方”でありながら、実はたくさんの人と信頼をやり取りする仕事です。相手の立場によって、聞きたいことも、必要な言葉も変わります。

なぜ必要か

相手が正しく状況を理解し行動できるようにすることが、被害の最小化と意思決定の迅速化につながるためです。

考え方

1)相手の関心に合わせる。
利用部門は「いつ何ができて、何ができないか」。経営は「損失と復旧見込み」。開発は「再現条件とログ」。相手別に軸を切り替える。

2)事実と見込みを分ける。
「今、A機能は使えません(事実)。Bで代替可能です(回避策)。13時に再度報告します(次の約束)。復旧見込みは14時±30分です(見込み)」。これで相手は次の行動が取れます。

3)短く、正確に。
10分の長説明より、1分の正確な要点。専門用語はできるだけ削り、どうしても必要なら一言で置き換える(例:「データの渋滞です」)。伝わらない説明は、していないのと同じです。

まとめ

運用保守エンジニアは「作業する人」ではありません。システムを守り、仕組みで再現性をつくり、改善を積み重ね、チームで成果を出し、関係者に正しく伝える人です。ここに挙げた考え方は、難しいテクニックではなく、誰でも今日から実践できます。

派手さはありません。けれど、こうした小さな積み重ねが、あなたの現場を確実に強くします。あなたの手で、今日の“当たり前”を守っていきましょう。

いけやん

いけやん

現役システムエンジニアのいけやんです。 駆け出しシステムエンジニアやIT業界に転職を考えている方のために有力な情報発信をしていきます!

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