OJT(On the Job Training)は、現場で部下を育成する最も実践的な手法です。
しかし、実際にOJT担当者になってみると「思ったように成長してくれない」「目標設定がうまくできない」「叱ると逆効果になってしまう」といった悩みが必ずといっていいほど出てきます。
私自身もエンジニアとして部下を指導する中で、似たような壁に何度もぶつかってきました。
そこで出会ったのが、松尾睦さんの著書『OJT完全マニュアル 部下を成長させる指導術』です。
本記事では、この本の重要トピックを紹介しながら、実際に現場で実践して得られた気づきを交えてレビューします。
目次
書籍の概要
本の情報
- タイトル:OJT完全マニュアル 部下を成長させる指導術
- 著者:松尾 睦
本の特徴
本書はOJTのプロセスを 7つのSTEP に分け、それぞれの段階でよく起こる問題とその解決策を提示してくれる構成になっています。
単なる「How to マニュアル」ではなく、実際に現場で直面する悩みを例に取り上げ、ベストプラクティスを紹介している点が特徴です。
私自身の感覚としても、「多くのOJT担当者が抱える悩みは、この本の中に全部ある」と言っても過言ではありません。
だからこそ、OJTを始める前に一通り目を通しておき、実施中に悩みが出たら必要な部分を読み返す「ハンドブック的な使い方」をおすすめします。
7つのSTEP
- OJTの土台作り
- 目標設定
- 計画立案
- 計画の実行
- トラブルへの対処
- 評価
- 学びの抽出
7つのSTEPと学び
OJTの土台作り
最初に重要なのは、教育スタイルです。
本書では「線路型・放牧型・ガードレール型」の3つが紹介されています。
- 線路型:指導者が目標も方法も決め、部下はそれに従うスタイル。効率は良いが、部下が考える余地はない。
- 放牧型:目標も手段もすべて部下に任せるスタイル。自由度はあるが、方向性を見失うリスクがある。
- ガードレール型:目標は上司が示し、やり方は一定の範囲で部下に任せるスタイル。自由と管理のバランスが取れており、最も実践的。
私自身の経験でも「ガードレール型」が一番しっくりきました。部下に考える余地を与えつつ、脱線しそうなときにはアドバイスで支えることができます。
また、土台作りで欠かせないのが信頼関係(ラポール)の構築です。
本書では「愛してるの原則」として、以下の3つが紹介されています。
- Attention(注目)
- Interest(関心)
- Sympathy(共感)
私も意識的に「小さな言動にも注目し、関心を持って共感する」ようにしたところ、相談のしやすさが格段に上がりました。
目標設定
挑戦的な目標を設定すると、部下本人が「なぜここまでやる必要があるのか」と疑問を抱いたり、「自分にはできないのでは」と不安を感じたり、「そもそもやりたくない」と消極的になってしまうことがあります。
本書では、この背景にある3つのマインドブロックを明確に示しています。
- やらなくてもいいのではないか
- できないのではないか
- やりたくない
それぞれに対して有効なアプローチが紹介されています。
- 「やらなくてもいい」→ 組織全体の課題と結び付ける。
たとえば「この改善活動はチーム全体の効率化につながる」といった視点を与える。
本人の仕事がただのタスクではなく大きな目標の一部であると理解させることが大切。 - 「できない」→ タスクを分解し、難所を明確化する。
「この部分さえ突破できれば大丈夫」という発想に切り替えさせ、さらに「必要なサポートは惜しまない」と伝えて安心感を与える。 - 「やりたくない」→ 「ストイックな修行」ではなく「成長や楽しさを実感できる挑戦」であることを伝える。
達成時のメリットや成功体験を強調すると「やってみたい」という気持ちに変わる。
私が実践しているのは、必ず「本人にとっての意味付け」を明確にすることです。
組織の成果と本人のキャリア成長を両方結び付け、「このスキルが身につけば将来リーダーとして活躍できる」「次のプロジェクトで任される可能性が高まる」と具体的に伝えています。
また、達成後の成長イメージを描かせることでモチベーションは大きく変わります。
結果的に、挑戦的な目標も納得感を持って受け止めてもらえるようになりました。
計画立案
計画立案では「仕事を通じた成長をイメージさせられるか」がポイントです。
- 上司が背景や目的を説明する
- 部下に「自分の成長とどうつながるか」を考えさせる
ただし、どうしても成長が見えにくいタスクも存在します。
私はそうした業務こそ「業務改善のチャンス」として部下に考えてもらうようにしています。
実際に「自動化できるのでは?」と気づいた部下が、改善提案をしてくれることもありました。
また、裁量を持たせたいがなかなか踏み出せない時には、「任せ上手の5原則」が役立ちます。
① 少し上のレベルの仕事を任せる
② 全体像とゴールを共有する
③ 任せた後も見守りつつ助言する
④ 細かい指示は最小限にする
⑤ 周囲に支援体制を作る
私はさらに、スキル表を使って「できること/できないこと」を可視化しました。
これにより、部下が自信を持って取り組める範囲を明確にでき、ギャップによる失敗も減らせました。
計画の実行
実行段階でよくある悩みは「部下がすぐ答えを求めてくる」ことです。
私は「目的は何?」「制約は何?」と問い返すことで、自分で考える習慣を促しています。
基本的に問題が発生したときの解決は、目的・制約・前提知識の大枠3セットがそろっていれば答え(あるいは答えの候補)を導き出せます。
まずは目的と制約を発問で引き出し、足りない知識を補完してあげつつ、答えを導き出させるというステップを踏むことが大切です。
そして最後に結論が出たら、それで終わりにせず、導き出した答えに対して賛同し認めてあげましょう。
これにより部下は「自分で解決できた」という実感を持ち、次の挑戦にも前向きになります。
ただし、この方法だけに頼ると「全然答えを教えてくれない上司」と思われがちです。
そのため、定例ミーティングで「わざと答えをすぐに言わない理由」を説明するようにしました。
部下も納得して取り組めるので効果が高まりました。
一方で、タスクが遅延しているときは答えをすぐに提示することもあります。
「考える時間を取って大丈夫」と伝えるか、「今はスピード重視」と判断するか、その見極めはOJT担当者の腕の見せ所です。
トラブルへの対処
忙しい現場では「後でいい?」と言いたくなる場面が多々あります。
しかし、本書が指摘するように「部下からの質問は最優先」という考え方は非常に大切です。
私が意識しているポイントは以下の通りです。
- どんなに忙しくても、まずは部下の話を聞く姿勢を見せる。
- 本当に対応できない場合は「10分後なら聞けるよ」と具体的な時間を提示する。
- 日常的に声をかけるなど、部下との接点を増やしておく。
- 話すときは目を見て、体を相手に向けることで「聞く姿勢」を伝える。
- 失敗した際も感情的にならず、落ち着いて諭すように指導する。
これらを積み重ねることで、部下は「相談しても大丈夫だ」という安心感を持ち、自然と相談しやすい雰囲気が生まれます。
評価
叱るのは指導の中でも特に難しいポイントです。
本書では「感情的にならない」「叱る前後で褒める」「一対一で」「客観的に」「簡潔に」といった鉄則が示されています。
具体的には以下のような注意点があります。
- 感情的にならないこと。
感情的に叱ると部下は委縮し、問題を隠すようになってしまう。 - 叱る前後に褒めることで、受け入れやすい状況を作る。
- 客観的事実に基づいて叱ることが重要。
主観的だと「上司の都合で怒られている」と思われ、信頼を失う。 - 叱る時間は5分以内に収め、余計な話を付け加えない。
- 必ず一対一で行い、公開の場で叱るのは避ける。
伝えたいことは後で匿名事例として共有するのが望ましい。
私自身、感情的に叱ってしまった経験があります。
特に、自分の責任や仕事の進捗遅れ、業務量の増加、同じミスの繰り返しなどが重なると冷静でいられなくなることがありました。
ここで大切なのは「自分が何に怒っているのか」をしっかり整理することです。
部下が改善すべきことなのか、自分の感情コントロールで解決できることなのかを切り分けると、無駄に感情的にならずに済みます。
恐怖で相手をコントロールする方法は一時的に効果があるものの、長期的には信頼を損ねてしまいます。
今の世代に合うのは「冷静かつ客観的に短く伝える」スタイルだと感じています。
自分が少し感情的になってしまったときは「何に怒っているのか」を振り返り、感情と課題を混同しないように心掛けています。
学びの抽出
指導者がどのように関わるかで、部下の成長度合いは大きく変わります。
- 成功体験 → 応用できる技術や自信につながる。
成功の要因を分析することで「再現できる強み」として定着する。 - 失敗体験 → 教訓として次に活かす。
単なる失敗談ではなく「次にどうすれば良いか」という改善策まで導き出す。 - 業務の見える化 → 実施したプロセスを振り返り、工程ごとに良かった点・課題を整理する。
振り返りの場で部下に「良かった点」を出してもらうと、意外と答えられないことが多いです。
その場合には、以下のような発問が有効です。
- 「進捗が遅れたり困ったことはあった?」
- 「問題はどのように解決した?」
- 「問題がなかった場合、なぜ順調に進んだと思う?」
これらを問いかけることで、部下は自分では気づいていなかった強みや工夫に目を向けられます。
さらに、部下が繰り返し口にする言葉の中には本人の問題意識が隠れていることが多いため、その理由を深掘りすることも効果的です。
指導者の役割として「新たな視点・視野・視座」を提供することがあります。
例えば、部下が担当範囲しか見えていないときには前後の工程や影響範囲を示す、あるいは自分目線に固執している場合には他者の立場からの視点を提示することで、より広い学びにつなげることができます。
本書から得た総合的な学び
この本を通じて強く感じたのは、OJTは「部下を成長させる場」であると同時に「上司自身が成長する場」でもあるということです。
私自身も、この本を読む前は「とにかく教えればいい」と考えていました。
しかし実際には、以下のような要素が不可欠であり、それを意識することで自分の指導スタイルも大きく変わりました。
- 考える余地を与える:答えをすぐに与えるのではなく、目的や制約を問いかけ自ら導き出させる。最後に承認することで自信につなげる。
- 信頼関係を築く:日常的な声掛けや共感、ラポールの構築を通じて「相談しても大丈夫」という安心感を与える。
- 挑戦的な目標設定:マインドブロックを理解し、組織課題や本人の成長と結び付けることで納得感を持たせる。
- 権限委譲の工夫:スキル表や範囲の明確化を通じて、無理のない範囲で任せる。支援体制を整え、部下が自律的に動ける環境を作る。
- 感情を整理して叱る:冷静かつ客観的に短く伝えることを意識し、恐怖ではなく信頼をベースに指導する。
- 学びを引き出す発問:成功・失敗の要因を掘り下げたり、新たな視点を提供したりして学びを定着させる。
エンジニアの現場は業務の難易度が高く、トラブルも多いですが、これらの要素を踏まえて取り組めば、部下と共に課題を乗り越え、上司自身も成長できると実感しています。
まとめ
『OJT完全マニュアル』は、OJT担当者の悩みに実践的な解決策を与えてくれる一冊です。
本記事ではその一部を紹介しましたが、実際の書籍にはさらに多くの事例や工夫が盛り込まれています。
ぜひ実際に本を手に取り、自分の現場に合った形で活用していただきたいと思います。
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